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【第41回イブニング新人賞、応募受け付け中!】『ぼくらの』『のりりん』『隼ちゃんもとんでます』の鬼頭莫宏氏スペシャルインタビューをお届けします!

18/07/20
現在、編集部で審査中の「第40回イブニング新人賞」関連記事)で特別審査員長を務めていただく鬼頭莫宏氏の、新人時代から今に至るまでの漫画家人生の軌跡を語ったスペシャルインタビューを公開!

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『ぼくらの』『のりりん』『隼ちゃんもとんでます』
鬼頭莫宏氏スペシャルインタビュー

(「イブニング」2018年12&13号に掲載)


とにかく描き続けた青春時代

——漫画を描くことに興味を持ち始めたのはいつ頃からでしょう?

鬼頭莫宏(以下、鬼頭)
小学生の頃です。絵を描くのが好きだったので。でも今みたいに漫画が世の中に溢れている時代ではなかったので、友達に借りたり理髪店に置いてあるものを読んだり、という感じでした。

——初投稿やデビューの経緯を教えてください。

鬼頭
初めて漫画を出版社に投稿したのは高校生の時です。「週刊少年サンデー」でした。でも箸にも棒にもかからず、年に1回ぐらい投稿を続けて、大学2~3年生のときに初めて賞を獲りました。受賞するまで担当編集がついたことはなかったのですが、大学ではSF漫画研究会に所属していて、そこの仲間に原稿を見せたりしていましたね。
受賞作が雑誌に載って、それがデビューになります。以降、ネームのやり取りはしましたが掲載には至らず、大学卒業後は普通に就職し3年間サラリーマンをしました。

——サラリーマン時代はまったく漫画は描いていなかったのですか?

鬼頭
絵を描かなくなるのはいやだったので、不定期でも描ける場所を探そうと思い、「COMICペンギンクラブ」という成人向け雑誌で何本か描いたりしていました。実はこの情報は公にしていなくて、名前も別のものを使っていたのでウィキペディアにも載っていません(笑)。
でもエロ方向はウケが悪くて、自分にはそっちの才能はないなと実感しました。やはり別の方向に進もうと思っていた時に、コミケで「週刊少年チャンピオン」の編集さんに声をかけてもらったんです。

——それがきっかけで会社を辞めて上京されたんですか?

鬼頭
いえ、元々就職する時に3年間働いてどうするか結論を出そうって思っていたんです。で、3年経ってやっぱり漫画をやりたいなーと。「大丈夫!」という確信があったわけじゃないんですけど、当時は何やっても生きていけるって思っていたので(笑)。そんな感じで上京してプラプラしている僕に、担当さんがアシスタントの仕事を紹介してくれたんです。それがきくち正太先生の仕事場でした。
きくち先生の仕事場は本当に居心地がよくて、衣食住酒が完備されていて「人生にこれ以上何が必要?」っていうくらい(笑)。だから、きくち先生の仕事場に行っていた何年間かはアシ業務以外で絵はまったく描いていないです。


「焦り」がデビューのきっかけに

——ええ!? そうなんですか! そこから「アフタヌーン」で『ヴァンデミエールの翼』を連載するに至った経緯をお伺いしたいです。

鬼頭
きくち先生の所には先輩アシが2人いて、彼らも僕同様のほほ~んと生活していたんですが、そのうちの1人が急に漫画を描き始めたんです。その姿を見て僕も焦り始め、「アフタヌーン」の四季賞に『ヴァンデミエールの右手』を投稿し、入賞を機に担当が付きました。その後、受賞作が急きょ代原(※雑誌の穴を埋める代替原稿のこと)として「アフタヌーン」に載ることになったんです。それがきっかけで『ヴァンデミエールの翼』として連載することになりました。
不定期連載だったので、ネーム(※漫画の設計図となる絵コンテ)が出来たら担当に見てもらって、OKが出たら原稿にして……という感じだったので、比較的気は楽でした。しばらくはアシスタントを続けながら描いていましたね。そして『なるたる』の連載が始まるタイミングできくち先生の下を離れました。


自由な風土に育ててもらった

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——『なるたる』は初の長期連載作品ですが、売れるために意識したことはありましたか?
鬼頭
う~ん、結果が伴っていないのでアレですけど、「自分ならいけるんじゃね?」っていう漠然とした自信がありました。大体それは勘違いなんですが(笑)。自分の場合は元々「人が読んで面白いもの」よりも「自分が読んで面白いもの」を作りたいという欲求が強かったので、後悔がないようにやろうという想いでしたね。担当さん的は「もっと読者を見ろや」って感じだったと思うんですけど…(笑)。
これは推測ですが、当時の「アフタヌーン」だったから許されたことだと思うんです。連載作品の7割は実験だよなっていうぐらい好き勝手やっている雑誌でした。護送船団方式というか、10隻船があるうち1隻デカい船があれば何とか沈まずにやっていけるわけです。そして残りの小さい9隻の中に、とんでもない物を積んでいる船がいるかもしれない。でも、それは走らせてみないとわからないわけです。だから新人に失敗が許されていたように思います。今だったら絶対載らないであろう作品がたくさんありましたよ(笑)。

——当時の「アフタヌーン」ならではのエピソードですね! その後「IKKI」で連載された『ぼくらの』も大ヒットとなりましたが、そちらはいかがでしょう?

鬼頭
『ぼくらの』に関しては、まったく売れると思っていませんでした。最初のうちはそんなに人気もなかったし。売れたのはアニメ化された後ですね。
そもそも自分としては『なるたる』とか『ぼくらの』は、「そこそこ面白いけど売れないもの」という評価なんです(笑)。ただ、目を留めてくれた人が「この漫画好きだ」って長い間大事にしてくれるかなって。一般ウケはしないけど質は悪くない、という風に自分では思っていたので、何故売れたのかはちょっとわからないんです…。

——「イブニング」で連載された『のりりん』は、今までのSFやファンタジー路線から一転、「自転車」を題材にした日常ものですよね。

鬼頭
自分としては別のジャンルを描いたという意識はないんです。昔からSFとか日常モノとかジャンル分けはしていなくて、SFのキャラクターでも誰かと会話してケンカしてって日常を送っているわけで、それは現実世界と何も変わらないので。例えば『じゃりン子チエ』の世界におかしなモノを投入して主人公がどういう反応をするかっていう作品を作れば、それはSFですよね。恋愛ものの漫画の主人公が戦場に送り込まれたら、それは戦争ものになるわけです。だから何か新しいものを描こうという意識はなかったです。
当時の「イブニング」は今よりももう少しビジネス誌っぽかったので、そこで自分に何が出来るかなと考えた時に「じゃあ自転車かな」と。今の「イブニング」だったらやっていないかもしれないですね。その雑誌ごとに自分なら何を描けるか、何を描いてもいいかは考えています。


どんな世界にも物理法則はあるはず

——鬼頭先生の描く世界は独創的なアイディアに富んだものが多いですが、発想の源はどこにあるのでしょう?

鬼頭
いや、自分では独創的だと思ったことがないのでわからないです…アイディアって難しいですよね。

——近いアイディアの作品は他にもあるかもしれませんが、それを鬼頭先生ならではズラし方で表現されている印象があります。

鬼頭
もし何か理由があるとすれば、「ジャンルもの」としてアイディアを考えないというのもあるかもしれません。あとは、どんなにSFやファンタジーな世界でも、ある程度の理由づけや物理法則は必要だろうといつも思っています。
自分が学生だった頃のSFって、なんちゃってファンタジーとかなんちゃってサイエンスだったんですよ。超能力者が「ハッ」って叫ぶと力が出て、なんだよそれ!っていう(笑)。
雪男だって1000匹見つかれば謎の生物じゃなくなるし、幽霊だって科学的に存在が証明されればオカルトではなくなる。例えばライター1個持って原始時代に行ったら、それはもう「魔法使い」なわけです。だから魔法にだって科学的なベースがあるかもしれない。そういうことを、なんとなくうっすらでもいいので乗せていきたいなと思っています。

——キャラクター作りについてはどう考えていらっしゃいますか?

鬼頭
自分はキャラ作りがあまりうまくないと思っていますが、『ぼくらの』の時なんかは、その世界の中で一番効果的なキャラクターを当てはめようとしました。入れ物となる世界を使ってやりたいことがあるとしたら、そこに合うキャラクターを考えるのは当然だと思います。
最近の「なろう系」(小説投稿サイト「小説家になろう」出身作家の総称)の方たちを見ていると、本当にそういうキャラ作りの能力に長けていて、敵わないなって思いますね。「自分がこの世界にいたら何ができるか」ということをきちんとシミュレートされているので面白いですよね。

——鬼頭先生の作品は十代の少年少女を主人公にされていることが多いですが、未完成な人間を描きたいということなんでしょうか?

鬼頭
そうだと思いますけど…う~ん、どうなんだろう。『エヴァンゲリオン』なんかもそうですが、一番端的な言葉で言い表すと、その世代って「厨二病」ですよね。なんでその言葉がことさら揶揄(やゆ)されるかっていうと、やっぱりみんな思い当たる節があるからだと思うんです。悟ったような気持ちでいるけど答えは出ていないっていうのが、ちょうどそれくらいの年齢なんじゃないのかな。だから面白いというか。就職していてやることが決まっている人間が主人公だとどうなんだろうなっていう。


苦しい、辛い、の先に成長がある

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——なるほど。そういう意味では、大人が主人公の『のりりん』は異色の作品ですね。

鬼頭
『のりりん』は自転車に入り始めた人とか興味を持ち始めた人に向けたハウツー本みたいなイメージで、ひたすら自転車のうんちくを語るっていう漫画なので、人間ドラマを描くぞ!という気はさらさらなくて(笑)。ちなみに今連載している『隼ちゃんもとんでます』もそうです。『のりりん』も『隼ちゃん』もネーム作業が楽しいんですよ。
実は、絵を仕事にしてから絵を描いていて楽しいと思ったことは一度もないんです。やっぱり描けば描くほど自分が下手だなっていうのがわかるので、「あれ?」っていう違和感ばかりですね。以前、『バガボンド』を描かれている井上雄彦さんが「進めば進むほど足りないものが見えてくる」とコメントされていたことがあって、まさにそうだなと。引用ですが(笑)。
でも、絵を描くのが辛いと言っても「もう俺は完璧だ、天才だ」って思った瞬間に終わりだと思うので、苦しんでいるくらいがいいんじゃないかと思うんですけどね。


ネーム作りは「出し惜しみ」も大事

——そのエピソードは驚きです…! ネーム作業はお好きとのことですが、新人さんが最初につまずくのはネームだと思います。何かコツはあるのでしょうか?

鬼頭
デザインとかって、「足し算より引き算」って言うじゃないですか。まあそれを言っている人に対して「本当にそうか?」って色々言いたいことはあるんですけど、でもまず最初に考えなくちゃいけないのはそこかなと思います。
デビューしたての頃って「これで最後かもしれないから全部注ぎ込むぜ」っていう考え方でいたんです。そのせいで限られたページの中にめちゃくちゃ詰め込もうとしていたんですよね。そうすると論点がボケたネームになってしまう。さらに言うと、今出し過ぎちゃうとその後の引き出しが少な過ぎて「俺、空っぽじゃねえか!」ってなるので、最初のうちは出し惜しみぐらいがいいんじゃないかなと。その方がわかりやすくて焦点が合った作品になると思います。

——実は鬼頭先生は今連載をお休みしてリハビリ中でいらっしゃるんですよね。

鬼頭
そうなんです。脊柱管狭窄症という病気で、放っておくと歩行もできなくなるって言われたんで、これはもう手術しなきゃと。リハビリの甲斐もあって今は日常生活にはそんなに不自由はないんですが、麻痺が右手側に出ちゃって、力が入らなくて箸でコロッケを持ち上げられないとか、そういう状態なんです。でもゲームもできるし自転車にも乗れるし、日中もプラプラしている元気なおかしな人っていう(笑)。なので時間はたっぷりあるんです。


他人の目は気にせず「好き」を描く!

——リハビリ中にも関わらずご協力くださって本当にありがとうございます! 最後に、投稿作品に期待することを教えてください。

鬼頭
何か1つ飛び道具があるといいですよね。お話がつまらなくても1個セリフがすごくいいとか、絵が1コマめちゃくちゃいいとか。すべてで平均点を目指そうっていうんじゃなくて、「俺はこれが好きで、これがやりたい、ここを見てくれ!」っていう方がいいと思います。結局のところ平均点を目指す人って、人の目を気にしているんだと思うんですよ。親や先生に褒められたいとか。そうじゃなくて、とにかく自分の好きなものを、他人のウケとか気にせずに「俺はこれがやりたい」っていうことを描いてください。自分の好きなものだけは嘘をつけないし、他のところの出来が悪くても、そこだけは光って見えるはずです。
昔からよく「何描けばいいんですか」って編集さんに聞くような姿勢じゃダメって言いますよね。編集さんに聞いて描いたものは他の人にも描けるよと。まずは自分が描きたいものを描いて、すり合わせは後からやればいいんです。むしろ編集さんが付いていない状態の作品って一番やりたい放題やれるはずなので、他人の目を気にせずに描きたいことをガンッと描けばいいんじゃないかと思います。

——鬼頭先生、ありがとうございました! 皆さんのアツい原稿をお待ちしています!



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