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【特報】本日8月10日(土)発売のイブニング17号にて、連載陣17人が選んだ「オススメ映画・海外ドラマ」珠玉の29本を掲載! その中から大間九郎先生が選んだ「少林寺木人拳」おすすめコメントの完全版を公開!

19/08/10

『幕末イグニッション』原作・大間九郎先生のおすすめ映画

『少林寺木人拳』(1976年公開)

僕は映画をそれほど日常的に観る方ではないので、この仕事がふさわしいか分かりませんが、依頼が来たので、一本書きたいと思います。

映画鑑賞者は何を映画に求めるのか? それは人それぞれではあると思いますが、僕個人としては、手に汗握る興奮と、涙あふれる感動と、包み込むような優しさと、突き放すような悪意と、緊張と弛緩と、それらが混然一体となった、非日常としての精神的解脱、神に会うような宗教的体験を求めてしまいます。それは小説や漫画、物語全体でも同じなのですが。

僕は原作者なので、ストーリーに着目し、日々仕事をしています。なので今回、ストーリーで人々を神に会わせられる映画はどれか?と考えましたが、中々これ!と断定することができません。その中で、これはヒントになるのでは?と思う作品を紹介したいと思います。

僕がおすすめしたい映画は『少林寺木人拳』です。

本作はジャッキーチェン主演の時代劇カンフー映画シリーズの一つで、強盗に殺された父親の仇を取るため、少林寺で武術修行をしている主人公(ジャッキー)の成長と、復讐のお話です。

この映画の素晴らしいところは多くあり、その全てを語ることは、ここではできませんので、一番の見どころである、ストーリーの巧みさについて語りたいと思います。

本作はまず、“復讐の物語”であるということです。主人公は幼少期に目の前で父親を殺され、復讐の力を得るため修行に明け暮れます。
復讐の物語は、物語作成では王道で、誰にでも受け入れやすく、本作でも強い推進力をもって物語を前に進めてくれるエンジンになっています。

次に、本作は“父親殺しの物語”である、ということです。父親殺しの物語は、復讐の物語同様に、太古から人々に愛されるストーリーです(ここで言う父親とは父的存在のことです)。
主人公の師の一人は、主人公の実夫を殺した強盗でもあるのです。強盗である師は、弟子である主人公に強盗なりの愛情を注ぐシーンがあり、また主人公が悪事を働く師をかばうシーンもあり、より二人の疑似的親子関係を強く感じさせ、物語に深みを生みます。

最後に、本作は“行きて帰りし物語”であるということです。主人公が国から出て、冒険をし、国に帰り王になる。この物語形式は神話からロールプレイングゲームまで本当に多く使われています。 本作も少林寺修業時代から野に下り、復讐を遂げ少林寺にて僧になるという、行きて帰りし物語なのです。

その他にも、本作が完璧な三幕構成であること、主人公が異端者(話すことができない)であること、キャラクターそれぞれが家族的役割を持つことなど、ストーリー構成の素晴らしさを語るにはネタが尽きません。完璧なシナリオと言っていいでしょう。

しかし、本作を観ても「神に会うような感動には達しない」と断言できます。

素晴らしいストーリー構成、演技、キャラクター。これらを持ってしても、見終わった後、サラリと日常に帰還できてしまう、弱い非日常しか本作は提供できないのです。

とても面白い映画です、つまらなくない、時間を忘れてしまうほど熱中して観ることができるでしょう。でもそれだけの映画です。完璧なストーリー構成は、神に会わせてくれない。そのことがよく分かる映画です。

数多ある映画の中で、この映画ほど完璧に作られた「神に会えない映画」は存在しないと思いますので、一度鑑賞し、映画の中の神とは何か?を考えてみるきっかけとしてみてはいかがでしょうか?


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『幕末イグニッション』待望の第①巻は8月23日(金)発売!


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